青森地方裁判所 昭和25年(行)6号 判決
原告 古川稲太郎
被告 柏木町農業委員会
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告(当時柏木町農地委員会)が昭和二十四年六月十四日別紙目録記載の宅地(以下本件宅地と略称する)(一)(二)について定めた買収計画はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、
(一) 原告はかねてその所有にかかる本件宅地(一)、他一筆を訴外工藤雄太郎に、本件宅地(二)を訴外高橋和七に賃貸していたところ、被告はこれらにつき訴外人らの各申請により自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第十五条第一項第二号による買収計画を定め、昭和二十四年六月十四日これを公告し、かつ期間を同日より同月二十三日までとして関係書類を縦覧に供した、そこで、原告は昭和二十四年六月二十三日被告に対し異議の申立をなしたが却下されたので、さらに同年七月三十日青森県農業委員会(当時青森県農地委員会)に訴願したところ、同年十一月三十日工藤雄太郎の申請による他一筆については訴願を認容するが、本件宅地(一)、(二)については訴願を却下する旨の裁決があり、該裁決書は同二十四年十二月七日原告に送達された。
(二) しかしながら、右買収計画には次のごとき違法がある。すなわち、
(1) 被告が本件買収計画を公告し、かつ関係書類を縦覧に供した日は前記のとおり昭和二十四年六月十四日であつたが、時間は午後七時以降であつた。したがつて、同日は期間のうちに算入すべからざるものであり、結局、縦覧期間については法定の十日を一日欠いていたものである。
(2) 仮にしからずとするも、本件宅地(二)の買受申請人高橋和七は農耕により生計を維持しているものではないから、自創法第十五条第二項第一号の基準により買収申請不適格者である。
(3) なおしからずとするも、本件宅地(一)の買受申請人工藤雄太郎(二)の買受申請人高橋和七はいずれもこれらを農耕用に使用してはおらず、単にその地上に生活の本拠として住宅を建築、使用しているにすぎない。しかして、自創法第十五条第一項第二号による買収の対象となるべき宅地は、同法によつて買収され又は買収さるべき農地に附随し、主としてその農地の用に供されているものであること(換言するといわゆる従属性をそなえていること)を要するものであるから、本件宅地は(一)、(二)とも買収すべからざるものである。
以上要するに、本件買収計画は違法のものであるから、原告はここに被告に対し右買収計画の取消を求めるため本訴に及んだと述べた。(証拠省略)
被告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として原告主張の事実中(一)は認めるが、右買収計画が違法のものであることは争う。
(一) 被告は本件買収計画を定め、昭和二十四年六月十四日適法にこれを公告し、かつ適法に関係書類を縦覧に供したものであつてこの点についてはかしはない。
(二)(1) 本件宅地(二)の買受申請人高橋和七は該宅地から約二町離れた箇所で田一町二反五畝二十六歩(うち買収による自作地九反歩、他は小作地)、畑一反三畝四歩(全部買収による自作地うち林檎畑一反歩)を耕作し、昭和二十三年度四十三俵三升余、同二十四年度四十七俵九升三合を供出した専業農家であり、ただ冬期間柏木町農業協同組合に依頼され副業として居村四ツ屋部落から「カマス」を集荷し、多少の手数料(一枚金五十五銭一箇年の集荷数約六千枚計金三千三百円)をもらつているにすぎないものであるし、
(2) 本件宅地(一)の買受申請人工藤雄太郎は該宅地から約二町離れた箇所で田八反四畝歩(うち買収による自作地六反四畝歩、他は小作地)、畑二反三畝歩(全部買収による自作地、うち林檎畑二反歩)を耕作し、昭和二十四年度三十四俵を供出した専業農家である。
(3) しかして、訴外人らはいずれも本件宅地を住宅の敷地として使用しているほか、農機具置場及び農耕作業用地として使用しているものである。
したがつて、原告主張の(2)、(3)のかしもまた存しない。
以上要するに、本件買収計画は適法のものであるから、原告の本訴請求は失当であると述べた。(証拠省略)
三、理 由
(一) 原告がかねてその所有にかかる本件宅地(一)、他一筆を訴外工藤雄太郎に、本件宅地(二)を訴外高橋和七に賃貸していたところ、被告においてこれらにつき訴外人らの各申請により自創法第十五条第一項第二号による買収計画を定め昭和二十四年六月十四日これを公告し、かつ同日より同月二十三日まで関係書類を縦覧に供したこと及びその後の異議、訴願の経過については当事者間に争がない。
(二) 原告は右買収計画は違法のものであるとし、(1)ないし(3)の事由を主張しているので、以下これについて考察する。
(1) 自創法第十五条による宅地の買収については、同法第六条の準用により農地の買収の場合と同様、公告の日から十日間関係書類を縦覧に供しなければならないことになつているが、その趣旨とするところは、これによつて宅地所有者に買収計画の内容を確知せしめ、異議申立の機会をあたえる点に存すると思料される。したがつて、宅地所有者において所定期間(すなわち縦覧期間)内に異議の申立をなし、これが適法なものとして受理、審査せられたときは、縦覧期間についてのかしを理由として買収計画自体の取消を求めることは、もはやその実益がないものとして許されないと解するのが相当である。しかるところ、本件の場合にあつては、原告は前記のとおり所定期間内に被告に異議の申立をなし、適法なものとして受理せられ、これに対する決定も得ているのである。しからば、原告の(1)の主張はそのほかの考慮を加えるまでもなく、すでにこの点において採用することができない。
(2) 証人高橋和七の証言により成立が認められる乙第二号証の一、二、証人栗林忠右衛門、高橋すわ、高橋和七の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、本件宅地(二)の買受申請人高橋和七は昭和二十四年当時は田一町二反歩、畑一反四畝歩、現在は田一町三反九畝十歩、畑一反四畝六歩を耕作して農業に従事し主としてこれによつて一家(家族は妻子らとも計十人)の生計を維持しているものであること、もつとも同人は昭和二十三、四年度柏木町農業協同組合の依頼をうけ、副業として居村四ツ屋部落から藁工品を集荷し、年間平均約金九千円の手数料を収受しており、そのほかに妻すわは同二十三年頃衣類の行商をして多少の収益をあげ、三男勝栄は同二十一年から同二十五年二月頃まで製材所に勤務し、同二十四年度には月間平均金四千円の俸給を得ていたが、これらはいずれも農業による所得とは従たる関係にあつたことが認められる。甲第二号証の一、二の記載、証人古川ていの証言、原告本人訊問の結果中右認定に反する部分は容易に信用しがたいし、他にこれをくつがえすに足る証拠はない。しかして、右認定の事実よりすれば、高橋和七を自創法第十五条第二項第一号の基準による買収申請不適格者とみることはできないから、したがつて、原告の(2)の主張もまた理由がない。
(3) 証人赤平弥次郎、高橋和七、工藤雄太郎の各証言、検証の結果に弁論の全趣旨を総合すると、
(い) 本件宅地(二)の買受申請人高橋和七が耕作している前記農地のうち田約八反七畝歩、畑約四畝歩が昭和二十二年七月二日自創法により売渡をうけた自作地であり、かつこれらの農地と該宅地との間には近くは約三町、遠くは約七、八町の距離が存すること、
(ろ) 本件宅地(一)の買受申請人工藤雄太郎は田約八反一畝歩、畑二反三畝歩(うち林檎畑二反歩)を耕作し農業に従事しているが、そのうち田約六反六畝歩、畑全部が昭和二十二年七月二日より同二十三年十二月二日までの間四回に自創法により売渡をうけた自作地であり、かつこれらの農地と該宅地との間には近くは約三町、遠くは約五、六町の距離が存すること、
(は) 本件宅地(一)の買受申請人工藤雄太郎は該宅地上に間口約六間、奥行約三間半の木造萱葺平家建住宅一棟を建築しこれに居住しているほか、母屋に隣接して間口約三間、奥行約二間の木造萱葺物置小屋一棟を建築し、農機具収納用等に使用しており、さらに右二棟の建物の敷地以外の空地は農機具置場及び農耕作業用地としても使用していること、本件宅地(二)の買受申請人高橋和七は該宅地上に間口約五間半奥行約三半間の木造トタン、柾混ぜ葺平家建住宅一棟を建築しこれに居住しているほか、右建物の敷地以外の空地は農機具置場及び農耕作業用地としても使用していること、換言すると、訴外人らは本件宅地をそれぞれ住宅の敷地に必要としているにとどまらず、売渡農地の経営のためにも必要としていることを認めることができ、他にこれをくつがえすに足る証拠はない。
しかして、自創法第十五条による買収の対象となる宅地については、売渡農地のためにという制約はあるが、必ずしも農地に密接又は従属している必要はなく、農業経営に必要な宅地であれば足りると解せられるところ(最高裁判所昭和二十五年七月十三日第一小法廷判決及び昭和二十六年十二月二十八日第二小法廷判決参照)、本件の場合にあつては、訴外人らは前記認定のとおり、それぞれ本件宅地を少からざる売渡農地の経営のためにも必要としているのであるから、その間に多少の距離が存するとしても、該宅地は同法条によつて買収され得る宅地とみるのが相当である。しからば、原告の(3)の主張もまた失当である。
以上要するに、被告の定めた本件買収計画にはなんら違法の点がないことに帰するから、これが取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきものである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 工藤健作 中島誠二 野原文吉)
(目録省略)